「家を買おう。」――そう思ったとき、何を軸に選べばいいのか迷った経験はありませんか?
これから一生を過ごす住み家。人生のなかでも大きな選択だからこそ、納得のいく判断をしたいというのは、誰しも考えることではないでしょうか。ところが、いざ考え始めようとしても「そもそも、何を大事にしたら『納得のいく決断』になるの?」と迷ったり、「調べ始めたけれどポイントが多すぎて選べない…」と感じたりして途方に暮れてしまう方も多いのではないでしょうか。
私の場合、住まいの近くにどんな図書館があるか?ということがひとつ大事な基準としてあります。というのも、司書として勤務し、図書館とはどんな場所なのかを考え続けた経験があるからです。幼少から司書という仕事にあこがれ、大学で海外の図書館に触れたことで司書の仕事の専門性を知り、図書館という場所が持つ可能性に心動かされました。その経験から、この記事では「地域にある図書館から住む街を決める」という一つの視点をご紹介したいと思います。
今回は一例として、武蔵境駅のほど近くに位置する「武蔵野市立ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス」を取り上げたいと思います。
その1.武蔵野プレイスってどんな場所?
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武蔵野プレイスの公式Webページを見た人や、初めて訪れた人は「ここって図書館なの?」と思われる方も多いかもしれません。それもそのはず、この施設は「図書館の機能を持った人と情報の集積地」として建てられたからです。
公式ページで紹介されている理念には、目指す像として「図書や活動を通して、人とひとが出会い、それぞれが持っている情報(知識や経験)を共有・交換しながら、知的な創造や交流を生み出し、地域社会(まち)の活性化を深められるような活動支援型の公共施設をめざしています[i]」とあります。
「つまりはどういうこと?」と思われるかもしれません。いまいち想像しにくいかと思うので、具体的に4つの機能を紹介します。
- さまざまなサークルや地域活動団体の活動を支援する、市民活動支援機能
- 人生を通したあらゆる学びをサポートする、生涯学習支援機能
- 青少年がさまざまな過ごし方を通して居場所をつくることを手助けする、青少年活動支援機能
- 本を介してこれらすべてをつなぎ、情報提供・課題解決機関として施設を根幹から支える、図書館機能
武蔵野プレイスの特徴は、この4つの機能が混ざり合い、影響し合えるように建築から工夫が凝らされているところにあります。それぞれのエリアへの壁を物理的になくすことで、さまざまな使い方や過ごし方が可能となり、思わぬ出会いや、何かが起こりそうな楽しさ、知的な刺激に満ちた空間になっています[ii]。そうした工夫から「アクションの連鎖」を生み出し、支援していく施設なのです[iii]。
まとめると武蔵野プレイスとは、「誰もが自然体でいられる、居心地の良い“プレイス”」を目指す場所であり[iv]、その中で図書館機能は、それらの活動を本というハブを通してつなぎ・支える役割を果たしているのです。
その2.「つながり」が暮らしに与えてくれるもの
「武蔵野プレイスがつながりを大事にしていることは分かったけれど、それの何がいいの?むしろ人と関わりたくないんだけど…。」と考える方もおられるかと思います。この項目では、職場(学校)・家族以外にアクセスできるコミュニティがあるということの重要性について書いていきたいと思います。
子育て中の親御さんにとって、小さなお子さんを連れていても安心して立ち寄れる場所は大事なものです。お子さんが自由に遊ぶのを見守りながら、親御さん同士で他愛ないおしゃべりをしたり、育児の悩みを共有したりできる場があれば、抱え込みがちな子育ての不安を減らすことができます。特にご実家が遠くにある方にとって、地域の誰かとつながれる場所は、慌ただしい日常のなかでほっと一息つける「安心スポット」になり得ます。はじめから無理に人と関わろうとしなくても、その価値は十分に発揮されます。「自分にとって居心地の良い場所」でありさえすれば、調子をリセットできる避難場所になるからです。
また、お子さんの成長に関してもつながりは大きな意味を持ちます。地域のつながりが希薄化している現代、限られた属性や年代の人としか接することのない子は少なくありません。「思いがけない出会い」を生み出してくれる武蔵野プレイスに足を運べば、他校の友達ができたり、さまざまな過ごし方を通して新しい「好きなこと」が見つかったりするかもしれません。そしてそれが未来の選択肢を増やしてくれることにつながる可能性もあります。
武蔵野プレイスでは、青少年がさまざまな過ごし方ができるよう工夫されています。勉強や読書、おしゃべりなど多目的に使えるティーンズ専用ラウンジだけでなく、楽器演奏やダンス、料理や工作ができるスタジオ、卓球やボルダリングができるスペースまでそろっています。ティーンズスタジオはメインライブラリーとは階が分かれており、このエリアを使用できるのは19歳以下の青少年に限られています。そのため、声の音量などを気にする必要がありません。さらに芸術分野と10代向けの本(ヤングアダルト)はティーンズスタジオと同じフロアに置いてあるため、本とも親しみやすい場所になっています。
フロアひとつを「ティーンズの空間」として敢えて区切るだけでなく、靴を脱いで横になれるスペースやソファ席を作るなど、ファミレスや家にいるような「ゆるさ」を作り出すことで、10代の子たちは羽を伸ばして思い思いの過ごし方でくつろぐことができます。そうした工夫が「ゆるやかな居心地のよさ」を作り出しているのです。
また、空間づくりの工夫だけでなく、スタッフによる青少年へのゆるやかな働きかけも行われています。スタッフは臨床心理士などの資格を持っているわけではなく、また専門家でもありません。あくまで「身近な大人」として青少年を見守ることで、ゆるやかなペースで安心できる場を作り出しています。学校という区切りも年齢も超えて様々な人と関わることで、子どもたちは世界を広げていくことができるのです。

つながりを生み出す場が身近にあるということは、普段の暮らしに新しい風を吹き込んでくれるだけでなく、子どもにとっても大人にとっても「困ったときに頼れる場所がある」という安心感につながるのです。
その3.なぜ図書館なのか?
武蔵野プレイスについて具体的にご紹介してきましたが、ここではじめの提案に戻りたいと思います。すなわち、なぜ家を選ぶ際に図書館に重きを置くのか?についてです。
図書館が身近にあることが暮らしに与えてくれる変化は、大きく2つあります。
- 図書館では信頼できる情報を提供してくれるため、人生におけるお困りごとを解決する糸口が見つけられる
- 正解を覚えるのではない、学ぶことそのもののプロセスを体験できる
図書館は小説など読み物を借りる場所、というイメージがまだまだ根強いかと思われます。(そしてその親しみ方ももちろん、図書館を訪れる際の魅力の一つです。)ただそれだけの場所ではなく、地域の課題解決の手助けも、図書館は担っています。図書館では、本だけでなく学術データベースや過去の新聞なども利用することができ、個人の書斎でカバーするのは難しい範囲や深さの情報にアクセスすることができます。
また、司書は資格取得の段階で「図書館情報学」を学んでおり、図書に限らないあらゆる情報から信頼性の高いものを見極めて集める術を身に着けています。古文書などの歴史的資料はもちろんのこと、ICT技術を駆使して最新の情報にもアクセスする方法を身に着けているのが司書なのです。つまり、図書館からならば、あらゆる「確かな情報」にプロのサポートつきでアクセスすることができるのです。
そしてこちらも根強いイメージかと思われるのが、図書館は宿題など持ち込んだ課題の勉強をする場所、というものです。確かに図書館は雰囲気が落ち着いていて、集中して勉強ができる環境です。ただ、「目の前にある問題を解くだけ」で終わらせるのはもったいないと思うのです。持ち込んだ課題に関連する本を図書館で読むこともできますし、もっと自由に「新しいことを知っていくプロセス」を学ぶこともできます。
「パスファインダー」という言葉を見たり、聞いたりしたことはありませんか?「パスファインダー」とは、「道(path)」を「見つける人(finder)」という意味で、知りたいことがあるとき、どのように資料を探したらよいか教えてくれる、手引きのことを指します[v]。多くの図書館では、このパスファインダーを一枚の紙にまとめて、訪れた人が誰でも手に取れるようにしてあります。カウンターで司書に話しかけるのは少しハードルが高い…という方でも、知りたいことを探すヒントを見つけることができます。 たくさんの本や情報の中から、自分の知りたいことにまでたどり着く過程は、どこか宝探しのようでわくわくするものです。
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パスファインダーという宝の地図や、司書という案内人の助けを借りながら、時に「自分の知りたいことって本当にこれなのかな?」と迷ったりしながら、「そういうことだったんだ!」という気づきまでたどり着く。もしかすると「答えはない」ということにたどり着くこともあるかもしれない。そんな「目的地までの道ゆき」そのものが楽しく、きっと誰しもの財産になると、この記事の書き手である私は思います。そしてこの楽しさに年齢制限はありません。大人も子どもも、何歳からでもこの楽しさに出会うことができる。そうして楽しんで得た「確かな情報を選び取る技術」は、具体的な暮らしの課題を解決する際には力強いスキルの一つとなってくれます。困ったときはいつでも、「相談カウンター」の司書に声をかけてみてください。
図書館は、自分の世界をもっと豊かにできる扉のひとつだと思っています。その扉を開けにいくことを、新しい暮らしの楽しみの一つとしてみてはいかがでしょうか。
おわりに
今回は、「図書館という視点から、住む街を選んでみる」という選択肢の一つを提案させていただきました。家を選ぶ基準は人の数だけあって、選び取ったものがそれぞれその人にとって大事な答えです。「誰かのおすすめ」は身の回りにあふれているけれど、自分だけの「心躍るツボ」はどこにあるのだろう。船の錨を下ろすように、敢えて一旦立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。その中で掴み取ったものが、一生モノのお気に入りになるかもしれません。
一生で一度かもしれない決断をするまでの時間を、どうせならわくわくする経験にしてほしい。この記事を読んだ方が、自分なりの家探しの軸を見つけて、新しい暮らしを思い描くことを楽しんでいただける。そのきっかけとなれたらとても嬉しく思います。
【参考資料】
[i] “武蔵野プレイスの理念”. 武蔵野プレイス. https://www.musashino.or.jp/place/1001617/1001618.html, (参照 2025-12-04)
[ii] 川原田 康子ほか. 武蔵野プレイスがめざしているもの. 建築技術. (743):2011.12,p.32-39. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I023336468
[iii]小谷 義樹. 武蔵野プレイス : 新しいタイプの公共施設における青少年活動支援の取り組み. 図書館雑誌 = The Library journal / 日本図書館協会図書館雑誌編集委員会 編. 111(10)=1127:2017.10,p.668-670. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I028552353
[iv] “自然体で過ごせるわたしの場所「ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス(武蔵野市)」-第1回 進化する東京の図書館を訪ねて”. LIFE LIST – 好きな街・住みたい街・私の街. https://www.homes.co.jp/life/cl-spot/cm-public_spot/68423/?msockid=2f2e3fe477f56fbe2c5d2ab7761f6e5d, (参照 2025-12-16)
[v] “パスファインダー(資料の探しかたについて)”. 杉並区立図書館. https://www.library.city.suginami.tokyo.jp/research/pathfinder/, (参照 2025-12-16)
山下 里加. SCOPE “ゆるやかな繋がり”をコンセプトにあらゆる市民の居場所をつくり出す : 東京都武蔵野市「ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス」. 地域創造 : 町づくりアートを応援します. 41:2017.Spr,p.48-53. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I028142202



