海外研修の行程が社内で共有されて間もなく、数年前に開催されたポンペイ展のグッズを私が持ち歩いていたことをきっかけに、同じ設計チームのIさんが「ポンペイに行きませんか」と誘ってくれました。


おおよそ2000年前の西暦79年、ローマ帝国のとある都市が火山噴出物に飲み込まれて埋没しました。ナポリ近郊のヴェスヴィオ山の大規模噴火によって灰に埋もれたこの都市の遺跡こそが、ポンペイです。
広さは約66ヘクタールもあり、東京ドーム約14個分に相当します。 発掘は18世紀から始まり現在も続いており、これまでに発掘された部分は全体の約2/3となっています。
ローマからバスで往復する日帰りツアーを利用したため、ポンペイの後にはナポリ散策もセットで組み込まれていました。訪れた日は道中の渋滞も影響し、ポンペイの滞在時間は2時間しかなかったため、早足で歩き回りました。
円形劇場や秘儀荘など有名な見どころはいくつもあるのですが、今回は「当時の日常生活が垣間見える」という観点で興味深かったところを紹介します。
整然とした街並みの工夫
【道路】
まず驚いたことは、街並みがしっかりと形成され、道路が整備されていたことでした。
歩道から歩道へは、車道面から高さをつけて設けた庭飛び石のような横断歩道を渡ります。車道は雨水だけでなく下水も流れていたため、歩く人が汚れないようになっているのです。
横断歩道の石と石の間には隙間があるので、馬車や荷車はここに車輪を通せば問題なく通行できます。 また、車道に敷き詰められた大きな石の隙間に所々ある白い「猫目石」が、夜は月の光で反射して車道であることを示します。
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大通りの脇には、狭い一方通行の道もありました。
フォロ(広場)につながる道路には進入できないよう車止めがあります。
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現代の道路にも横断歩道が設けられており、アスファルト舗装には勾配があって雨水が流れるようになっています。白色の線はライトで夜も見えます。この共通点に感動しました。
また、ある道では「ここは私道なんですよ」というガイドさんの説明に、私とIさんは「第42条1項5号…」(私道の建築基準法における道路種別)と同時に呟いたのでした。
【共同水場】
ポンペイは共同水場も多数あり、待ち合わせ場所としても活用されていました。
水場につける馬車がぶつかっても壊れにくいよう大きな石を角に置き、石同士をつなげるために「かすがい」が用いられています。「かすがい」は木材同士を接合させるための金物として現代でも使われています。
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また水場には各々目印になる絵の石があり、私たちが訪れた場所には鳥がウサギを咥えている絵がありました。
文字の読み書きができなくても、この絵を目指して誰でも待ち合わせをすることができます。
ユニバーサルデザインのピクトグラムですね。
他にも、通りの角にはワインの壺を運ぶ人の絵の印などがありました。
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古代の温浴文化:スタビアーネ浴場
古代ローマの遺跡群のうちで最も古い浴場の一つです。
屋内にはプール、脱衣場、低温・中温・高温それぞれの浴室などがあり、男性・女性用も分かれています。貧しい人もお金持ちの人も分け隔てなく利用でき、入浴だけでなくお喋りをする社交場にもなっていたようです。
2階以上は崩れている建物が多い中、天井がアーチ状やドーム状になっていた浴場は火山灰が落ちやすかったために比較的当時のまま残っているとのこと。
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内側に見られる装飾も素敵だったのですが、私がさらに驚いたことは浴場の設備面でした。
断熱性を高めるために、壁も床も二重構造になっていたのです。 壁と壁の間には配管を通して暖房ができ、床は釜から熱い空気を運んで温められる仕組みが出来ていました。床暖房ですね。
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浴場施設の部屋の種類が多いだけでなく、快適に過ごすためにここまでのこだわりよう…すごいです。
現代にも息づく、住宅デザイン
有名なスポットとなっている「猛犬に注意(CAVE CANEM)」のモザイクタイル。他にも様々な住宅の中にモザイクタイルが施されていました。
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「ようこそ」の意
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「猛犬に注意(CAVE CANEM)」
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「鳩」
現代のタイル工事は、主にタイルを工場で製作して現場に運びますが、当時はテッセラ(小石の破片)を手でカットして敷き詰めて作ったそうです。 手間と時間がかけられたこのタイルの上を歩いて生活していたとは、贅沢ですね。
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こちらは屋根の勾配を中心に傾け、雨が集まって落ちる空間だったそうです。
現代では公共施設にありそうなデザインが家に施されていました。
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こちらの家には2階からの配管が壁に埋め込まれていました。
現代の住宅設計でも、外観において悪目立ちしないよう工夫しつつ、無駄のない経路にする配管の計画はとても重要です。 当時の設計者も同じことを考えていたのでしょうか。
街角を彩った、店舗デザイン
ポンペイにはいくつも居酒屋があり、そのカウンターも特徴的です。
丸く空いた穴に鍋をセットしたカウンターを外側に面して置くことで、道ゆく人の食欲がそそられるようになっていました。そしてカウンター本体がとてもお洒落な色使いです。
壁付けのものもあったのですが、そのデザインと比べると、路面沿いのカウンターはよりカラフルなデザインになっていました。道からでも目につくように演出していたのではないでしょうか。
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ほかにも、歯医者・床屋・洗濯屋・酒屋など様々なサービスを提供する店が揃っていました。 そういった店のあった場所の入口には石に窪んだ跡があり、そこに引き戸が使われていたことが分かります。
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「当時の町並みを想像しながら歩いてくださいね」とガイドさんに言われた通り、生活の跡を辿りながら、同じ空間を共有する観光客が多いことも相まって、当時栄えていたポンペイの雰囲気を感じることが出来た気がします。
フィレンツェの大聖堂やローマのコロッセオなどの大きな建築物に圧倒された感動とはまた違って、遠い国の昔のことが現代にも通じていることに、驚きだけでなく共感する部分もあり、励まされたような気持ちにもなりました。
設計:H.S.
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